使命・教育・特色

生活のあらゆる場面を支える化学の“もの”づくり

私達の生活は科学技術によって支えられています。普段の生活をあらためて見てみると、液晶、繊維、プラスチック、セラミックス、医薬品、電池など多くの化学製品によって囲まれていることに気づくはずです。さらに情報産業を支える機能材料や電子材料、エネルギーやバイオマス、環境浄化技術など、化学の先端技術は多くの物質や材料、反応に利用され、豊かで健康的な生活を営むために欠かせない存在になっています。

これからも、生活に役立つ物質をつくったり、バイオテクノロジーによって健康に役立つ化合物や医薬を創製したり、新機能を持った新物質・先端材料を開発したり、光や化学エネルギーを高い効率で電気に変える画期的な手法をみつけたり、資源を有効に利用し、環境の破壊を防いだり、“もの”をつくる、あるいは変化させる「化学」に対し、期待と要求がますます高まることは間違いありません。

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基礎化学と工学を連携し社会の課題に向き合う

化学の進展は、かつては試行錯誤や勘に頼っていました。しかし、現在では最先端の装置や手法を使い、物質を構成する原子、分子の配列や基礎的な性質を解き明かすことから始まり、新しい性質や機能を持った物質や材料を理論的に予測し、精緻な設計指針に基づいて創り、また目的の反応だけを選択的、効果的に進めていくという研究が進められています。また基礎研究から開拓された新材料を工業的に生産し、実際に利用する技術や目的の化学反応を実現させるプロセスの開発が必要不可欠です。すなわち、物質・材料を創りだし、反応を制御する基礎化学と、それらを効率よく生産するための工学とが結びついてはじめて社会の期待と要請に応えることができるのです。工業化学科では、このような要請に応える研究者、技術者を養成するために、物理化学、有機化学、無機化学をはじめ、化学の基礎理論はもちろんのこと、物理学・生物学などとの境界領域にある化学およびそれと関連する工学の基礎知識を広い範囲で一貫して修得させる教育を行っています。

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ノーベル賞受賞者を育んだ伝統と時代に合わせた教育

工業化学科は京都大学において最も歴史のある学科の一つで、大学開校の翌年の明治31年(1898)に理工科大学の1学科として開設されました。それ以後、日本の産業の発展と社会の質的な躍進に対応して次々に拡充され、基礎理論から応用、製造にいたる化学に関連するすべての分野を網羅する化学系教育研究機関に発展しました。その卒業生は、学術領域における福井謙一博士、野依良治博士、吉野彰博士のノーベル化学賞受賞はもとより、学術・産業の広い領域で活躍し、今日の日本の科学技術の礎を築いてきました。

平成5年、幅広い教育とより高度な研究教育を実現するため、化学系学科の統合再編が行われ、新しい内容の「工業化学科」が生まれました。新生の工業化学科では狭い専門にとらわれず基礎化学と基礎工学を重視する教育を実施し、伝統ある京都大学の学風をますます発展させています。

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化学のあらゆる分野を網羅する世界有数の研究環境

一方、大学院も同時に改組され、材料化学専攻、物質エネルギー化学専攻、分子工学専攻、高分子化学専攻、合成・生物化学専攻、化学工学専攻の6専攻に再編されました。各専攻は世界のトップレベルの研究教育を行い、社会にその成果を還元しています。また様々な異なる分野との連携を促進するために、学内の化学研究所、エネルギー理工学研究所、原子炉実験所、ウイルス・再生医科学研究所、環境安全保健機構、福井謙一記念研究センターの研究部門が研究協力講座として参加し、化学系全専攻が包含する分野は化学に関するほとんど全てにわたっています。これらの専攻で行われている化学研究は基礎・応用の両面で世界有数のレベルにあり、大学における化学部門としては最大の陣容を誇っています。

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幅広い化学の基礎学力と教養を身につける第1学年

工業化学科に入学した学生に対し、先に述べた目的を達成するため、化学に関連した広い分野にわたる基礎学力の養成を重視した授業科目を用意し、工業化学科の全教員が協力して教育に当たっています。

第1学年では数学・物理学・化学等に関する基礎的な能力を養うとともに、語学や人文・社会系の科目を履修し京都大学の学生として必要な基礎的素養を身につけます。なお基礎物理化学と基礎有機化学については工業化学科の教員が教育に当たります。第2学年から工業化学科としての専門課程が始まり、物理化学・有機化学・無機化学・分析化学・化学プロセス工学等について、工業化学科の教員による基礎的かつ高レベルの教育を受けます。

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第2学年からはコースに分かれて専門性を磨く

1年半の共通のカリキュラムに続いて、第2年次の後期からおよそ2:3:1の定員比率で創成化学コース、先端化学コース、化学プロセス工学コースに分かれ、将来の専門分野に応じた教育を受けます。創成化学コースでは、物質の合成、構造、機能、性質を支配する基礎原理を学び、化学的な探求手法を修得します。これらを通して将来、人間社会に貢献する新しい機能や性質をもつ材料創成のための化学を専門分野にすることを目指します。先端化学コースでは物質の反応や化学的性質を支配する基礎原理と実験手法を修得することによって、将来、分子レベルの反応・物性の理解、新規化合物の合成、エネルギー関連化学など多様な化学の専門分野に展開することを目指します。化学プロセス工学コースでは、化学の基礎科目に加えて、物理、数学、コンピューターサイエンスなどの工学基礎を修得し、将来は、分子レベルから、化学プロセス、さらには地球環境にいたるまでのあらゆるシステムにおけるエネルギーと物質の変換・移動過程を定量的に取り扱う工学の分野を専門とすることを目指しています。

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なお、教育効果を高めるため、すべてのコースにわたって共通のカリキュラムも準備されていて、幅広い専門知識を修得できるようになっています。第4年次で学生は研究室に所属して専門分野の卒業研究を行い、研究者・技術者としての高度な知識を修得するとともに基礎的訓練を受けます。

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卒業後は大学院で研究能力を高め、社会で活躍

以上のような化学の基礎を学んだ工業化学科卒業生の大半は、より高度な教育を受けるために大学院修士課程へ進学します。ここで一流の研究能力と先端的な技術を身につけた後、さらに博士課程に進学して研究を続けるか、就職して社会で活躍することになります。近年では、博士号取得者の専門性や研究能力を求める企業が増えており、博士課程を卒業後は大学、研究機関だけでなく産業界で力を発揮している卒業生も多数います。

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