井上 由輝(いのうえ ゆうき)さん/兵庫県出身

京都大学工学部工業化学科(2016年度卒業)
京都大学大学院工学研究科分子工学専攻 修士課程(2018年度修了)
在学時の所属研究室:分子工学専攻 物性物理化学分野 関研究室
現在:株式会社クラレ 繊維カンパニー 生産技術統括本部 マーケティングチーム

化学の力で
繊維の可能性を拡げる

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どうして京大工業化学科へ?所属研究室選びの決め手は?

高校時代の化学の授業が好きで、より深く化学を勉強し社会に役立ちたいと思い、工業化学科を選びました。4回生の時の研究室選びは迷いました。毎日通い、一日中過ごすことになる場所だからです。私の選んだ関研究室は、私が4回生の時にできた研究室でした。そのため、わからない部分も多かったのですが、ホームページで、高分子や低分子の材料研究や、それらの物性測定方法の開発を行っていることを知り、幅広い分野の研究をしていることに興味を持ったので、所属先に決めました。

学部、大学院での研究

関研究室の中で私が所属していたグループでは、これまでにない性質を持った新しい低分子の合成とその性質の解明を行っていました。4回生の時には、ベンゼン環がらせん状につながったヘリセンという分子を合成しました。この分子は、不斉を持たないベンゼン環がらせん状につながることで、右巻きか左巻きかによって不斉を持ちます。一般的にヘリセンは構造が複雑で、合成に多くの工程を要しますが、私の合成した分子は、らせん状の構造を分子内に2つ持つ複雑な構造にも関わらず、たった2工程で合成できるという特徴があります。結晶構造解析により、その分子構造を実際に目で見ることができたときは、自分で分子を合成したという実感がわき、わくわくしました。純粋に構造や性質が面白いという理由だけで分子を合成する研究ができるのは大学ならではないかと思います。

京大工業化学科の魅力

化学といっても、有機化学、無機化学、物理化学、生物化学、化学工学、高分子化学など多くの種類の化学があります。工業化学科では、それぞれの授業を1、2回生で満遍なく学べるので、化学という学問の基礎を身につけることができました。それらの中から、自分の専攻を選ぶので、それだけ多くの選択肢があるということでもあります。その分、選ぶのも大変ですが、自分が興味を持てる分野に必ず出会えます。

京大工業化学科の思い出

最も記憶に残っているのは、4回生の時です。それまでの3年間と違い、研究室に所属して朝から晩まで研究に専念することになるためです。関研究室を選んだことで他の研究室と違ったのは、配属当初、研究室に机しかなかったことです。新しい研究室だったので、ゼロの状態から、先生方や先輩方と一緒に研究室を立ち上げ、装置を配置したり、必要な備品を購入したりしました。一から研究室をつくるという貴重な経験ができたことは自分の糧になったと思います。

また3回生のときの学生実験、特に有機化学の実験では、先生方にご迷惑をおかけしました。予習して実験に臨むのですが、実際に手を動かすと全く感覚が異なり、時間がかかったり、時には器具を割ってしまったりと、自分の不器用さに自信を失ったときもありました。しかし、先生方がいつも気にかけてくださったので、だんだんと実験操作にも慣れ、無事に単位を取得できました。

就職の決め手

クラレには、「世のため人のため他人のできないことをやる」という企業文化があり、ナンバー1やオンリー1の製品が多いのが特徴です。例えば、当社のエバールは、酸素をはじめとしたガスを通しにくいガスバリア性を有しており、食品用包装材としてなくてはならないものです。私も世の中のものが全て置き換わるようなクラレにしかできない製品を生み出したいと考え、志望しました。

お仕事

入社から1年間、工場で繊維製品の開発をしていましたが、現在は本社で繊維製品のマーケティングをしています。繊維製品と言っても、衣料用ではなく、自動車や航空機などの輸送機や、農業、医療などさまざまな用途で使用されている繊維を扱っています。クラレで作った独自の繊維、特に開発中の新しい繊維を世の中に売り出すために、直接顧客の要望を聞いたり、開発部の方と一緒に繊維を開発したりしながら、どのようにすれば売れるのか、その仕組みづくりを行っています。

今後の抱負

私は会社に入って初めて、繊維に携わりました。いまだに自社の繊維が本当に多くの分野に使用されていることに驚く毎日です。それだけ繊維にはいろいろな可能性があるということでもあります。いつか、その可能性を自ら見つけ出し、他の人が思いつきもしなかったような場所に、クラレの繊維を使ってもらいたいと考えています。

仕事に役立っている工業化学科での学び

仕事をする上で大切なことは、物事を論理的に考え、それを相手に伝えることだと日々感じています。大学での研究でも会社の仕事でも、現象に対して、なぜそのようになったのかを考えることは非常に重要です。会社に入って、論理的に考えられていると上司に褒められたことがありました。これは、研究室での実験や、先生方との日々のディスカッションの中で、知らず知らずのうちに身についたためではないかと思っており、育てていただいた先生方に深く感謝しています。

後輩へのメッセージ

工業化学科には様々な分野の先生がいらっしゃり、本人の気持ち次第でどのような研究でもできる環境が整っています。自ら積極的に動き、自分が何をやりたいのかを考え、深く学んでください。また、学科でできた友人は、社会人になっても支えとなり、刺激を受けることのできる仲間ですので、大切にしてほしいと思います。

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