西谷 暢彦(にしたに のぶひこ)さん/京都府出身
京都大学工学部工業化学科(2014年度卒業)
京都大学大学院工学研究科 博士後期課程(2019年度修了)
在学時の所属研究室:合成・生物化学専攻 物理有機化学分野 松田研究室
現在:住友化学株式会社 情報電子化学品研究所 フォトレジストグループ
「引き出し」を増やして
日本の化学を盛り立てたい
どうして京大工業化学科へ?
京都の住民にとって京都大学は、やはり小さいころから憧れの存在です。小学生の時はレゴブロックが好きで、高校でも楽しかった授業は化学実験の時間でした。
願書を出す時に化学か物理か、建築か選択肢はいろいろありましたが、物理の数式よりも化学物質の幾何学模様やものを混ぜると色が変わって性質が変わるみたいなビジュアル的な設計ができるところに魅力を感じて、工業化学科を選択しました。
所属研究室選びの決め手は?
有機化学と物理化学、両方の分野をカバーする研究室は他にもあると思いますが、松田研究室では自分でデザインした分子の特性や物性をいろいろな化学機器を使って評価します。その結果を踏まえて、次の新しい分子をデザインしていく…この一連の流れを経験できるところが、発明家志向の自分にはとても魅力的に感じました。
それともう一つの決め手は、松田先生のお人柄です。先生ご自身が基礎研究、学問としての化学をとても大事に考えておられて、さらにその先の教育的な視点も非常に重要視しておられます。教員免許を持っている自分としても将来は下の世代に化学の魅力をもっと伝えていきたいという思いがあり、ここでぜひ学びたいと感じました。
学部、大学院での研究
学生時代の研究内容は、分子を「自己組織化」という現象で集積させて、ナノレベルの機能性材料を作る、です。集積体の部品となる有機分子を自分で合成して、その集積化構造をSTM走査トンネル顕微鏡を用いて評価し、集積化の現象を明らかにする研究をしていました。
STM走査トンネル顕微鏡を使うと、紙の上で書いた構造式が実際には分子のどの部分がどのようにくっついているかをナノメートルオーダーで見ることができます。中にはタイル模様のように整然と並んでいるものもあり、分子の構造によって集積しやすさが変わるところまではっきりと識別できます。その観察結果をもとにまた、紙の上の設計と観察の両方を行き来しながら次の分子構造をデザインするのが、とても楽しかったです。
京大工業化学科の魅力
京都大学には日本そして海外から多様な優秀な人材が集まっています。他の学部・学科も含めて、その人たちとの出会いのチャンスがいろんなところに広がっています。
京都大学というブランドを生かした課外授業や企業見学プログラムも充実しているので、意欲がある人は学部からさらに学びを深めることができる環境です。
京大工業化学科の思い出は?
院生時代は工学部と医学部と薬学部が連携したリーディング大学院に参加し、「充実した健康長寿社会を築く総合医療開発リーダー育成プログラム(LIMS)」に取り組みました。分野横断的な研究に関心を持つ学生たちが集まっていたため自然とウマが合い、自分の視野を広げるという意味でも貴重なプログラムでした。
学生の時に研究計画書を出して研究費を外から獲得する、なんていうことはそうそうありませんが、このLIMSを通して一足先に経験できたことも大変勉強になりました。LIMSメンバーとは卒業後も交流が続いています。学んだこと以上にそうした人間関係を築けたことが一番の収穫だったと思います。
就職の決め手
企業に行くか大学で研究を続けるかでかなり迷いましたが、最後は自分の専門性を生かして社会を良くするための製品を作るチャンスは今しかないと思い、企業を選択しました。
日本には本当に多種多様な化学メーカーがある中で住友化学株式会社に決めた最大の理由は、石油・樹脂・電子材料・農薬・医薬など多岐にわたる事業を持つ総合化学メーカーであるという立ち位置です。
これは工業化学科やリーディング大学院にも通じていることかもしれませんが、どうやら自分はいろんな分野の専門家が集まっている環境に惹かれるようです。日本の化学産業の振興に関わりたいと思った時に、多岐にわたる専門分野を包括している総合化学メーカーだからこそできることがあると思い、当社に絞り込みました。
お仕事
現在は半導体の製造プロセスに必要な材料フォトレジストの開発をしています。学生時代は分子でナノ構造を作ろうとしていましたが、フォトレジストは光で物質を削って作るという異なるアプローチでナノテクノロジーに取り組んでいます。
企業の研究開発は、お客様がどういうものが欲しいかとか、これからの科学技術に対して何が必要かというニーズを把握するところがベースになっています。私自身、現在は電子材料系の部署にいますが、将来日本の化学産業にどういうことが必要になってくるかを考えた時に、さまざまな専門家と組んでビッグプロジェクトに参加するようなキャリアパスが実現できるのも、総合化学メーカーの魅力だと感じています。
仕事に役立っている工業化学科での学び
工業化学科は有機化学にまつわる全てのプロセスをカバーしているため、ここで頭に入れた知識があれば、この先多少研究テーマが変わったり、どんな分野に当たったとしても自分の中に「引き出し」がある。そこが工業化学科出身の強みです。
さらに私が入った研究室は、ものづくりの有機化学に加えて物理化学を専門としていました。物理化学は、目の前の化学現象に対してその背景にある理論を見出すことを目的とした学問です。研究対象が変わっても起こった現象に対して根本原理の考察を深めていく思考を持ち得ているところは、現在の研究開発にも非常に役に立っていると思います。
後輩へのメッセージ
繰り返しになりますが、京都大学は国内トップクラスの大学の一つなので優秀な人がたくさん集まっており、化学の中でもたくさんの分野が学べる環境です。まだ自分が何をやりたいか分からない人もまずは入学して、必須科目以外にもいろんな環境に身を置いて自分の心にささるものを見出し、その専門性を研ぎ澄ませていってほしいなと思っています。
「化学」は、日本が世界と競争できる分野の一つです。相手は、国内の同業者だけでなく世界の化学メーカーたち。私自身、今後もいろんな「引き出し」を増やして日本の化学分野を盛り上げ、教育・研究・産業のいろんな角度から貢献できるようになりたいと思っています。みなさんもぜひ一緒に頑張りましょう!